その内、父様からいくつか見合い話が寄せられて、その中の一人にいた愁哉さん。あたしは迷う事なく彼を選んだ。それを彼が知っているかどうかは分からないけれど、愁哉さんが父様の申し出を断る事はなかった。


『愁ちゃん』


そう呼ぶ事を嫌がると知りながら口にするのは、もっと近づきたいから。

偶然見つけた母のアルバムに映っていた綺麗な少年、写真の下には『愁ちゃんと』そう書かれてあって、それが愁哉さんだとすぐに分かった。


初めて抱かれた日に半ば呟く様に腕の中で「愁ちゃん…」そう呼んだ声に愁哉さんは優しい瞳であたしを撫でた。


それが見たくて、二度と手に入らない表情を追って、


彼を『愁ちゃん』と呼ぶ。