* * *


「…どうされました」

彼は気怠そうに前髪をかきあげた。

日に当たると淡い茶色になる細い髪。整った顔立ちは冷たいくらい突き放した表情がよく似合う。眼鏡の奥に覗く瞳は、見透かされそうに、深い。

「だって、愁ちゃん…素敵ですもの」


あたしは素直にそう言った。


「その呼び方はやめて下さいと言っているでしょう」


彼は綺麗な眉を潜めてあたしを窘める。


『愁ちゃん』あたしより6歳年上。なのに彼の話し方が敬語なのは、多分、この関係のせいね。



「早く服を着てください。お嬢様。」



愁哉さんはネクタイをもう一度直すと既にきちんとした格好で、まだベッドに横たわるあたしを見下ろした。