嘘つき①【-ハジマリ-】


「冴木、」



「は、はい」


あたしを呼ぶ声にビクンと身体が反応する。部長は愉しそうに笑った。



また部長のリングに目を奪われていたんだ。





「感情はいらない」





口の端だけ上げる冷たい笑み。

漆黒の瞳はそれでもあたしを離さない。


「…好き、になるわけないです」


精一杯の強がり。


まだ触れられた身体は熱いのに、


彼はこんなに遠い。


「…よろしい」


何故か部長はひどく優しい目であたしを見つめた。

その視線と声が優し過ぎて、戸惑うだけ。







「いらなくなったら捨てて下さい」



あたしは自分に言い聞かせるように、また、この言葉を落とす。





それが、あたしの人生初めての『恋』と呼べない『嘘』の関係だった。





Fin