「何聴いてるの?」
「えっ!?」

誰も居ない放課後の教室で僕は音楽を聴いていたはずだった。
だから、急に耳にしていたヘッドフォンを外され驚いた。

「だから、何聴いてるの?」

さっきより、若干口調の強くなった声が僕の耳に届く。
振り返ると、ヘッドフォンを外した犯人の正体が分かった。

「嗚呼、風見さんか・・・。」
「そうよ。何驚いてるのよ。」
「いや、誰も居ないと思ってたから・・・。」

「で、何聴いてたの?」
「嗚呼・・・最近発売され・・・」

僕の答えを待つより早く、僕のヘッドフォンを
彼女は耳にした。

「この声、聴き覚えがある。誰だっけ?」

その問いに僕は最近チャートを賑わしてる某バンドの名前を挙げた。

「嗚呼、そのバンドなら私も知ってる。」
「そうなんだ?」
「うん。でも、そんなに詳しいわけじゃないけど。」

彼女は眼を閉じてその曲を聞き入っているようだった。
その横顔を僕は静かに眺めていた。

「それより、篠山君、早く帰った方がいいよ?」
「えっ?なんで?」
「外・・・」

閉じていた眼を開き、彼女の視線は窓の外へと向いた。
それに従うように僕も窓の外を見る。
窓の外を見ると白いものがチラチラと舞っていた。

「はい、ヘッドフォン」
「あっ、うん。」

僕は彼女が外したヘッドフォンを受け取った。

「今度さ、そのアルバム貸してよ」
「うん。いいよ。」
「じゃ、また明日。」
「うん。また明日。」

彼女を見送った僕は慌てながら教科書をしまい、コートを羽織って教室を後にした。