何で?とか学校は?とか疑問が過ぎったけど、鷹護さんの顔を見てホッとした私は気が緩んだ。
「ご無沙汰しております」
その場で正座をしてお祖父さんに挨拶をする鷹護さん。
「これは弓弦君、何故ここに?」
お祖父さんが驚くのも無理はない…鷹護さんが許婚を解消した理由を知らないからね。
如月さんのお父さんが慌てて腰を上げて鷹護さんに挨拶をする。
鷹護家の方が如月家より力関係が上で、如月家に婿入りした如月父としては鷹護家の嫡男に頭が上がらないってこと?
如月さんが松本家跡取りに拘る理由が何となく分かったかも…
「許婚を解消した件で誤解が生じてこの見合い話が上がったと淑乃さんから伺いました」
一瞬だけ如月さんを牽制するように一瞥し鷹護さんが話を続けようとすると、如月さんが言葉を重ねた。
「誤解も何も、許婚を解消した時点で弓弦さんには関係のないこと、ですよね?」
本当に苦手だわ、この人。
如月さんの嫌味などお構いなしで
「許婚を解消しても気持ちは変わらないとお伝えしておくべきでした」
と真摯な鷹護さんの言動が嬉しい。
これで如月さんとの話はなかったことになる…と思ったのに。
「形のない物に意味なんてないですよ、弓弦さん」
穏やかな中に挑戦的なものを感じる。
「恋に憂き身を窶し、ですか?鷹護家次期頭首ともあろうお方が随分と甘ったるいお考えだ。そんなことでは鷹護家も先が思いやられます。松本家が望まれているのは淑乃さんの安泰です。そしてそれは早ければ早いほど好ましい…」
如月さんがチラッとお祖父さんを見る。
悔しいけど如月さんの方が分が良いのは分かる。
お祖父さんが早く落ち着いた孫の姿を見たいのも分かる。
だけど、まともな恋愛を1つも経験せずに結婚なんてしたくない。
「私は家よりも淑乃さんの気持ちを大切にしたいので、これ以上のことは申し上げられません」
お家の権力を振り翳しちゃえば簡単に私を手に入れられるのに、鷹護さんは私の為を思ってそんなことはしない。
でも、それは子供の事情で大人には関係ないのかな…
私は喉元まで出掛かっている言葉を飲み込む。
まだ鷹護さんを好きなのか分からないから…如月さんとのお見合いをなかったことにしたいだけかも知れないから。
「私は家も女性も大切にしますよ」
決定的な如月さんの声が響く。