恋人は専属執事様Ⅱ

鷹護さんから何度も今日のお見合いは断るように言われ、お見合い相手のことは教えてもらえなかった。
お見合いと言っても今日は会うだけだし、断るから別に知らなくても構わないと思っていたけど…

お迎えに来た藤臣さんはいつもより質の良い燕尾服を身に纏い、私も到着したホテルの美容室で振り袖の着付けとヘアメイクを施された。
政治家が闇献金とかに使いそうな料亭の個室に通され、私は世の中そんなに甘くないと思い知る。
高そうなスーツをサラッと着こなし、私の向かいに座る如月周(きさらぎあまね)さん(28)は策士だった。
「出来れば年内に挙式を済ませたいのですが、淑乃さんのご希望も伺えますか?」
穏やかな笑みを湛えるその顔は鷹護さんとよく似ている。
母方の従兄弟らしいから、きっと2人共母親似なんだろうと如月さんの隣に座る如月母を見て思った。
問題は顔じゃない。
そう、何で顔合わせだけの筈が挙式の日取りを確認される羽目に?
「あの…」
「学校のことでしたらご心配なく。子供が出来たらいつでも辞めてくださって構いません。子供に手が掛からなくなったら、大検を取って大学に通ってください」
っ!子供って…子供が子供を産んで堪るか!!
そう思ってお祖父さんを見ると…嬉しそうに目を細めているから何も言えなくなった。
いや、ここで意思表示しないとややこしくなる。
「如月さん、」
「周で結構ですよ、淑乃さん」
笑顔こそ穏やかだけど、何気にこの人のペースで話が進んで行くから騙されちゃダメだ。
「如月さん。今日はお会いするだけと伺っておりましたので、具体的なことは全く考えていないのですが…」
名前呼びを拒否して全くを強調したのに、相変わらず穏やかな笑顔で
「それではこれから考えてください」
と一蹴された。
顔だけで中身は全然鷹護さんと似てないし。似ててもだから何?って話だけど…
何がイヤってこの人は『松本家跡取り』としてしか私を見ていないってこと。
さっきから家の話しかしない。
個人としての私なんてガン無視。
初めて会う13も下の小娘に一目惚れするのもおかしいけど。
勝手に話が進み、私が進退窮まったと観念した時。
「失礼します」
とよく通る声がして静かに開いた襖の向こうに、やっぱり高そうなスーツをサラッと着こなした鷹護さんの姿が見えた。