秋津君の応援に行きたくて、アーチェリーはどこでやるのか本部で訊こうとしたけど、人が多くて本部に辿り着けない。
困っていると突然背後から腕を引かれ、私は呆気なく後ろに倒れる。
「っぶねぇなぁ…」
私を抱き止める腕の中から見上げると秋津君だった。
「んな恰好で彷徨くなよ、バカ」
いやいや、秋津君が腕を引かなきゃ倒れなかったし…
でも秋津君に会えて良かった。
「秋津君の応援に行きたくて、場所が分からないから本部で訊こうかと…」
秋津君に起こされながらそう言うと
「お前、本当にバカだろ?電話しろよ、バカ」
と呆れ顔で言われ、返す言葉がなかった。
しょうがねぇなと秋津君は私の手を握り、はぐれたら面倒だからなと言うと早足で歩き始めた。
…済みません……
中庭を通り越し、壁越しに初めて見る寮の横を通り、漸く着いた第5体育館。
この学園の敷地の広さに驚いていると、秋津君は2階のスタンドに行けと言って、サッサと行ってしまう。
スタンドはまだ空席があって、私はなるべく前の方に座る。
秋津君はさっき会った時と同じ、赤いTシャツに黒いチノパン姿に胸当てを着けて練習を始める。
弓道みたいに決まったユニフォームがあると期待していたからちょっと拍子抜け…
でも、秋津君の放つ矢は吸い込まれるように的に当たる。
そう言えば、塾にも偶に長いケースを持って来てたっけ…
秋津君の意外な特技に、私は感心しながら見入った。
『これより男子予選シングルラウンドを始めます』
アナウンスと共に数人が並んで弓を構えた。
的の距離を変えながら延々と撃つのは大変そうだけど、秋津君は余裕で予選を通過した。
『これより男子決勝オリンピックラウンドを始めます』
アナウンスと共に、今度は2人ずつ交互に同じ距離の的に十数回撃つ。
ルールはサッパリだけど、秋津君の矢が一番的の真ん中に集まっているのだけは分かった。
案の定秋津君は優勝し、同じ紅組の人たちから手荒な歓迎を受けていた。
「秋津君、すごいんだね」
スタンドに来た秋津君にそう言うと
「松本のせいで本気出しちまったじゃねぇか…」
と何故か怒られた。
「え…私?ご免なさい!?」
と訊くと、舌打ちしながら別に松本の為じゃねぇしと不機嫌な秋津君。
でも、私の手を握ってグラウンドまで連れて行ってくれた。