『恋だとか、愛だとか、そうゆうのってメンドクサイ。』


それが、出会った時から
彼の口癖だった。





「いいんちょー。」

暗幕に覆われた音楽室で
ポーン、とピアノの鍵盤が音を奏でた。

真っ赤な絨毯の上、あたしはワイシャツのボタンを留めながら振り返る。



「委員長。」

もう一度、彼があたしを呼ぶ。


「またね。」

いや、正確に言えば
あたしの名前は“いいんちょー”でもなければ“委員長”でもない。


――瀬名 柚果(セナ ユノカ)


そんな可愛らしい名前が、一応あたしにもあるのだ。

…完全に名前負けしてるけど。




「………、」

ピアノの前に座り
胸元まで開放されたワイシャツを気にも留めず、彼は至って涼しい顔して手を振っている。


だからあたしは何も言わずに
乱れた制服を直しながら音楽室を出た。

そのままトイレに直行すれば
鏡に映るのは、いつもイイ子ぶってるあたし。


そう、瀬名 柚果ではない。



――“委員長”と呼ばれる、あたしだ。