諦めたように首を振り、僕は土管へ歩み寄った。

「……降りてこれるかい?」
僕はそう言い、まるでダンスを誘うかのように、手のひらを君に差し出した。

君は頷き、僕に体を預けた。
僕は君の両腋に腕を通し、かかえ上げた。

ゆっくりと地面に降り立ち、僕の顔を見る君。

君の背丈は、僕の胸の高さぐらいしかなかった。
小学校3年生のまま、水色のワンピースのままだ。

燃えるような夕日の中、僕たちの影は何倍にも大きくなっていた。

「……背が伸びたね」
と、君は言った。

「そりゃあ、ね」
僕は唇を湿らせた。


「私、ずっと、ずっと……もう一度あなたに逢いたいって思ってたの」

「僕もだ。……もしかしたら、10年以上ずっと君のことを考えていたのかもしれないな」

僕は地面に膝をつき、君の身体を強く抱きしめた。

「……おかえり」


―了―