門司港から南、僕の生まれた町には、廃工場がたくさんあった。

かつてこの町は、官営の八幡製鉄所を中心とした、北九州工業地帯の一画として栄えたものだった。

しかし、時代が変遷し、重化学工業よりも、シリコン等の電子工業が発達するにつれて、僕の町の工場はだんだん使われなくなってしまった。

役目を終えた工場群は、寂しげに、ただ取り壊されるのを待っている。

僕は大学からの帰り、電車の窓から、夕日に赤く染まった廃工場を眺めながら、僕が子供の頃に起きた失踪事件を思い出していた。

『君』が消えた、あの事件のことだ。