──しばらく誰も近づけさせないでと言った通り、室内にはベリル以外の姿はない。

「やあ」

 いつものように挨拶をするトラッドにベリルは怪訝な表情を浮かべた。

「君は何をしてもまったく動じないからね。しばらく様子を見ることにしたんだよ」

「そうか」

 とりあえずの納得をしたベリルに笑顔を返し腰を落とす。すると、ベリルの前に今度はブランデーがせり上がってきた。

「今日は君の好きな酒を持ってきたよ」

 手に馴染むボトルを見下ろし、どこで調べたのかと呆れてグラスに注ぐ。特に好んで飲んでいる銘柄に懐かしさを感じ、鼻腔に広がる芳醇な香りに目を細めた。

「ブランデーグラスじゃなくて悪いね」

「構わない」

 抑揚のない声で応えロックグラスを傾ける。そもそもベリルは普段からロックグラスにストレートで飲むタイプだ。