トラッドの脳裏には、これまでのベリルとのやり取りが何度も繰り返さていた。隙のない言動を、どう崩せばいいのか解らない。

 もし、こちらの言葉に返答を返せなくとも、返せないというだけで心が折れる訳でもない。彼の信念は、そんな事では揺るがない。

 彼の存在自体が僕らを(おびや)かしている。

 父さんの理想を実現したい。それにはベリルが必要不可欠だ。けれど、彼がいると僕たちの結束が乱れる。

 彼を逃がせば、理想を実現させる活動を続けられるだろう。導く者なくして、活動を続ける意味などあるのだろうか。

 まとまりを戻し、新たな適正者を選ぶことが最善なのかもしれない。

 されど、父さんの言うようにベリルが最も相応しい。彼、以上の人物を探し出せる自信が僕にはない。

 先が見えない状態に肩をすくめ、ベリルのいる部屋に向かった。