あやつりの糸

「でも、僕は母さんの顔を知らない」

 トラッドは瞳を曇らせる。

「僕が産まれてすぐに死んだって聞かされた。写真も残ってないし。そう考えたら、君と大して違わないよね」

 小さく笑ったトラッドに、ベリルはただ黙って目を合わせていた。

「君は、生まれ方が違っただけ」

 合わせたベリルの瞳をじっと見つめる。

 なんて不思議な瞳なんだろう。いつもは何を考えているか解らないのに、今は僕に共感してくれている。

 それが、痛いほど伝わってくる。

「君は、休暇にはあちこちに行くけど。それって、施設にいた頃のことが関係しているの?」

 世界への憧れは、決して実現しない場所にいた。

「沢山の風景を目に焼き付けていくんだね」

 永遠に好き勝手に生きていくの?

 (とげ)のある言葉を投げかける。