あやつりの糸

 
 ──昼を少し過ぎたころに二枚扉が開き、トラッドが顔を出す。ハロルドの姿がないことにベリルはいぶかしげな表情を浮かべた。

「みんな、ごめん。悪いけど一旦、中止になったから」

 準備をしていた青年たちは怪訝な面持ちで顔を見合わせ、それならとトラッドの指示に従い部屋から出て行く。

 ベリルは突然の中止に目を眇めつつ、近づくトラッドを見やった。

「君が十歳の時に、僕は産まれた」

 トラッドは水槽の前に座り込む。

「僕は早産でさ、結構危なかったみたい」

 唐突に身の上話を語るトラッドの表情は、年相応の青年らしい穏やかな顔つきをしている。

「父さんを看病していた女性との間に、僕は産まれた」

 運良く息を吹き返したけど、瀕死だった父さんはしばらくは歩く事が出来なかった。

「そんな父さんに母さんは母性でも芽生えたのかな」

 気がつけば親密な仲になって僕を身ごもった。