「ちょっと付き合ってよ」

 言うと、床から何かがせり上がってきた。

「君はブランデーが好きなんだっけ?」

 ベリルは琥珀色の液体が入った瓶とショットグラスに身を乗り出す。確かにブランデーを好んで飲むが、酒は全般にたしなんでいる。

「それ、僕のお気に入り」

 瓶を手に取り、トラッドを見やった。

「ああ、君の師匠も好きなんだよね。スモールバッチバーボン」

 厳選された少数の樽から瓶詰めされる、造り手の個性を楽しむ酒を好むとは皮肉なのかとベリルの口角が上がる。

「あー。いま笑ったね? 好きなんだから仕方ないでしょ」

 飲み干したグラスに二杯目のバーボンを()み、遠慮なく飲んでと促す。

 ベリルは揺れる液体をゆっくりグラスに半分ほど注ぐと、その色を楽しんだ。深い香りに目を細めて口に含む。

 鼻腔に広がる甘い香りと樽の風味に顔をほころばせ、師と共に酌み交わした酒とはまた違った味わいを見下ろす。