二階の自室前に辿り着くと鍵を開け、ノブを回してきしむ扉を開く。
「ん~。明かり、明かりっと」
見知った場所に確認もせず、スイッチをオンにすると薄暗い照明がついた。背後にトラッドがいるとも知らず、水を飲むためキッチンへ──
「やあ」
低く、くぐもった声にビクリと強ばり、その拍子にコップを落とした。マットに落ちたガラスのコップは、割れることもなく水をまき散らす。
「こんな所にいたんだね」
男はゆっくりと振り返った。
「……誰だ」
見知らぬ青年にいぶかしげな目を向けながら、予期していた最悪の結末に向かっているであろう予感にゴクリを喉を鳴らす。
「よく逃げ回ってたって褒めてほしい?」
「ま、待ってくれ! あのことは誰にも言うつもりはない。これからもだ! 現に、いままで言わなかっただろう!?」