「みんな、忘れている」

 彼は普通の人間じゃない。

 いくら水中でも生きているとはいえ、特殊な力がある訳でもない。外見も僕たちと何ら違いはない。だから、みんな現状に慣れて忘れていく。

 たかだか一週間で、すっかり彼は普通の人間(・・・・・)だと認識された。

 彼を捕らえるための訓練を受けたのは僕だけだからと言ってしまえばそれまでだけど、僕はずっと言ってきたはずだ。

「彼が本当に強いのは、精神的な部分だって」

 見えないものを計るのはとても難しい。

 ベリルが生まれた経緯と、これまでの生き方を見れば僕たちがしている事の、いかに困難な道程(みちのり)であるかを理解出来るだろう。