聴覚だけが研ぎ澄まされた世界で、ベリルは幾度も反復されるハロルドの演説を聴かされていた。

 それは数時間にも及び、ハロルドは目に見えて疲労の色を濃くする。

「父さん。そろそろ交代した方がいいよ」

 トラッドが声を掛けると、ハロルドはベリルを見上げて溜め息を吐いた。

 目隠しをしている状態では表情が読み取れず、それでも、ハロルドの話を受け入れていないという意思が伝わってきて険しい顔をする。

「そうだな」

 疲れから肩を落とし、ヘッドセットを外した。

「アイシャ。続きを頼めるか」

「かしこまりました」

 長い黒髪の女性はヘッドセットを受け取ると、部屋から出て行くハロルドの背中を見送り水槽のベリルを見つめた。

 目を閉じて深呼吸を数回ほど繰り返し、意を決してヘッドセットを装着する。