「相手が(ベリル)じゃなければ、悪趣味だよね」

 トラッドは作業を眺めながらつぶやいた。

「お前が言った事だ」

「まあそうだけど」

 本当にやるとは思わなかった。いや、そうでもないか。

 (ベリル)を奪うと決めて傭兵を雇ったとき、父さんは彼らに十五歳の子ども以外は全て殺せと命じた。

 そんな父さんが、こんな事で躊躇(ためら)う訳がなかった。

 僕はそのとき、まだ五歳だったから何も知らなかったけど、もし知っていても何も言わなかっただろう。

 それほどに、ハロルドという存在は僕にとって父以上だった。今でも父は、僕を導く偉大な存在だけど、父さんにとって僕は息子というより同志の一人でしかないのかもしれない。

 それでも構わない。父の理想を実現するための(いしずえ)となれるのだから。