「君はもう、逃げられないよ」

 青年が背中につぶやいたそのとき、ベリルの視界が歪み壁に手をついた。

「これは──っ」

「父が、待っているんだ」

 激しい眠気と戦っているベリルの腕を掴む。

「きさま。……いつ」

 そんな素振りはなかった。

「ここのウエイトレスは注意力が散漫でいけない」

 よくも言うと睨みつけるも、青年は涼しげな顔でベリルを見下ろす。

「案外しぶとい。今の状態でも十分に君を運べる」

 だから、無駄なあがきはやめた方がいい。

 まるで恋人にでもささやくように言い放ち、眠り崩れるベリルを優しく抱き留めた。