あやつりの糸

「自分の声すら誰にも届かない」

 ゾッとするね。しかも、水中という特殊な空間だ。空気を振るわせる事でしか音を出せない生物にとって、相当なストレスだろう。

 ベリルは現状維持タイプの不死といえど、それは肉体だけで記憶や経験なんかは積まれていく。つまりはストレスもあるし、溜まるということだ。

 極限まで追い詰められたとき、洗脳は成功する。父さんはそれを狙っている。

「でも、彼に通用するんだろうか」

 物心がついたときから、父の説と人工生命体の事を聞かされてきたトラッドは、ベリルに会う事を楽しみにしていた。

 生き返った父さんは後遺症を抱えていたから、僕はその代わりにベリルを捕まえるための(すべ)を身につけることを命じられた。

 訓練をするうえで彼の格闘術や戦術を穴が空くほど見通し、その動き一つ一つが繊細で芸術的とさえ思えた。

 それと同時に、彼に勝つことは出来ないとも悟った。だから、あんな手段に出た。

演説(あれ)が何時間も続くと思うと、ベリルに少し同情したくなるね」

 小さく笑い、自分の部屋に滑り込んだ。