「君はわたしの全てに反対している訳ではないのだろう? 人の精神は未だ成熟してはいない。否、後退していると言ってもいい。保守的な意識は──」

 トラッドはハロルドの言葉を聞きながら、ベリルをぼんやりと視界に捉えていた。

 昔から何度も聞いてきた父さんの説は人類を救いたいがためだ。僕たちは漠然とだが、人間の未来に危機感を抱いている世代でもある。

 ずっと箱庭にいた(ベリル)には到底、理解できないものだろう。いくら、外の世界を映像で見ていたとしても。

 とはいえ、それは過去の話だ。今は僕たちよりも世界の状勢をよく知っている。何せ、彼は有名な傭兵なのだから。

 色んな悔しい思いもしてきたんだろうね。その思いがあるからこそ、君は父さんの言葉に耳を傾けるときがくるだろう。

「抵抗、してほしくないな」

 つぶやいてトラッドは完全防音の部屋を出て通路を歩き出す。