「聞こえるか」

 これまでと変わらない声量であるにも関わらず、水中のベリルは両耳を塞いだ。

「ああ、すまないね。ちょっとボリュームが大きいようだ」

 下げるようにと指示をし、気を取り直して話し出す。

「液体に振動を伝える機械があるのは知っているだろう。定められた距離や深さに音を伝えることが出来る」

 それに、ベリルは上部を見上げた。

「今の君に聞こえるのは、わたしの声だけだ」

 そして、君の言葉は誰にも聞こえない。

「君はあくまでも人間だ。イルカやクジラのような能力はない」

 孤独の世界で、わたしの言葉を聞くしかないのだよ。

 相変わらずの不気味な笑みに、何故そこまで自信が持てるのかとベリルはむしろ呆れていた。絶対的な自信──ハロルドからはそれが見て取れる。