「貴様!」

 透明の壁に拳を叩きつける。

 突然に吹き出したベリルの怒りにトラッドと若者たちはざわめき、動揺した。ハロルドは背後を一瞥し、落ち着くようにと手でなだめる。

「わたしを殺した彼らがいけないのだよ」

「ベルハースは友人ではなかったのか」

「君を手に入れる事に比べれば、なんてことはない」

 平然と言ってのけた老人にベリルは奥歯を強く噛みしめた。

「あの頃より表情は豊かになったじゃないか」

 ハロルドのしれっとした態度とは逆に、トラッドたちはベリルから放たれる怒りに恐怖で体が震えていた。

 温厚な気質のベリルだが、持って生まれた強烈なカリスマ性は、こんなときにも発揮されるようだ。

「あの施設には三百人が暮らしていた」

 それを、正体不明の武装集団が全て奪い去り、後には何も残らなかった。己がどれほど無力なのかを思い知らされた。