──数十分後

 ベリルは静かに目を開き、捕らえられた事を再確認した。

「久しいな」

 聞こえた声に視線を向けてゆっくりと立ち上がるその瞳には、さしたる感情は映し出されていない。

 しかし、青年の言葉が真実だった事にベリルはやや安堵していた。

 私の事を知る者は、まだ外にはいない。それならば、やりようがある。

「わたしを覚えているだろう」

 嬉しげに両手を広げる老人にベリルは眉を寄せた。

「ハロルド」

「そうだ。君にあらゆる国の言語を教授した」

「今更、私に何の用がある」

 ハロルドは、刺々しいながらも耳にしたベリルの口調に口角を吊り上げる。

「そうでなくてはな」

 喜びに喉の奥から笑みを絞り出した。彼の背後にいる若者たちまでもが、それに同意するように歪んだ笑みを顔に貼り付けている。

 ゾッとするほどの不気味な光景にベリルは眉を寄せた。