あやつりの糸

「みんなには悪いけど、父さんと同じ苦しみを味わってもらうよ」

 この神経ガスは効き目を弱くしてある。

「ゆっくり死んでいくように作った」

 言いながらガスマスクを装着するトラッドにベリルは苦い表情を浮かべた。

「何故、こんな事を」

「それは、ガスマスク(・・・・・)のことを言っているのかい?」

 本当に神経ガスなら皮膚からも吸収される。最後まで残るのはトラッドだとしても、化学防護服を着ない限り最終的には死ぬことになる。

「ト、トラッド。いつから──」

「そうだね」

 ハロルドの問いかけに低く答える。

「ベリルについて学んでいくうちに、気がつけば僕のなかには、もう一人の僕がいた」

 父さんの願いを叶えるために僕は必死に訓練した。

 けれどベリルを知れば知るほど、訓練をすればするほど、僕のなかに矛盾が生じていく。

 父さんのために。ベリルのために──整合性を取ることが出来なくなり、それぞれに傾倒(けいとう)するための人格が生まれた。