「ねえ。聞かせてほしいな」

 ベリルはトラッドの雰囲気が今までと違うことに眉を寄せる。

「ここから逃げ出せることが出来たら、君は父さんだけは殺そうと思ってた?」

「さあ。どうだろう」

 無表情に答えたベリルに口元を吊り上げた。

「少なくとも、沢山の命を奪った報いは、受けさせるつもりだろう?」

 聞こえた言葉にハロルドと青年たちの手が止まる。

「トラッド。何の話をしている」

 ハロルドの問いかけを意に介さず、水槽に手を添えて続けた。

「君に会えて良かった」

 その笑みにベリルはぞくりとして立ち上がる。何をするつもりだ。

「トラッド──?」

 言いしれぬ不安にハロルドの心臓がドクンと大きく()ねた。視線を降ろすと、トラッドの手に何かが見える。

「それは」

 何を、持っている。

「ねえ、父さん」

 どうして人類を救おうだなんて、考えたの?

「教えてよ」

 そう問いかけるトラッドの瞳は、ひび(・・)の入ったガラス玉のように不気味な光を宿していた。




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