「いい加減、観念してくれないかなあ」

 溜息を吐き、無言でワインを飲むベリルを眺める。

 本人に愚痴を吐いている場合じゃないけど、残された方法を考えると躊躇してしまう。あれをやってしまえば、もう後戻りは出来ない。

「大勢を動かしたときの快感はなかったの?」

「なんだそれは」

 馬鹿な質問をするものだと呆れられた。でも、(ベリル)には欲というものがなさ過ぎる。

「解らない。君は今や、強大な力を手にしている。なのに、どうしてその力を誇示しないの」

 君のスポンサーは富豪だけでなく、国家にまで及んでいる。それだけの能力が君にはあるのに、どうして握った権力を振りかざさない。

「私が望むものではない」

 ──たったそのひと言が、トラッドの脳裏にこだました。