「お水のお代わりはいかがですか?」
話の合間を縫うように、絶妙のタイミングでウエイトレスさんがデカンタを手に訊いてきた。
「昇さん、喉渇いてない?」
奈緒さんはすっかりと新妻らしく、細やかに赤石さんを気遣ってた。
お似合いかもしれないなあ。
苦笑したあたしにも、ウエイトレスさんはお水はいかがですかと訊いたから、断ったんだけど。
なぜか彼女は勝手にグラスを手にすると、腰を屈めて水を注ぎだした。
だけど――。
「『アンパンアタマ、公園の噴水で待ってる』だそうですわ」
ひっそりと耳打ちしてきたウエイトレスさんの顔を見上げると、彼女はにっこり笑って次のテーブルに向かった。
訳が分からなくて目を瞬かせていると、赤石さんが感づいたらしく、あたしに目配せしてから頷いた。
“行きなさい、素直になりなさい”――と。
その瞬間、あたしは弾けるように席を立ち上がり、お代を置いて店を飛び出した。



