お母さんは朝一番の新幹線に乗って、東京に来てくれた。
赤石さんに引き合わせた後、高瀬さんが持ってきた婚姻届の下にある欄に署名してもらうんだけど、あたしはそれを他人事みたいに醒めた目でぼんやりと見てた。
……あたし、何してるんだろ?
今日で名前も籍も変わるのに、何の実感も湧かないよ。
お母さんは赤ちゃんが出来たなら仕方ない、といった諦めた風だし。
少なくとも、喜んではない。
それだけはハッキリしてた。
……そう。
嬉しくないんだ。
「杏子、なにぼんやりしてるの?あなたの記入する番よ」
お母さんがあたしにペンを握らせて、テーブルに促した。
……ここに名前を書けば……。
あたしは。
ホントウニ、イイノ?
アカイシサンヲオットトシテアイセル?
あたしの中で、何度も反芻した疑問が木霊する。
いいの!
決めたんだから、きっと好きになるって!!
あたしは想いを振り払い、婚姻届にペンを近づけた。



