赤石も一瞬だけ、ほんの僅かに眉を顰めたけど。
その後すぐにいつものにこやかな笑顔に戻り、あたしに歩み寄ってきた。
「これは奇遇ですね、杏子さん。どうかなさいましたか?」
あたしは赤石が近づかないよう、慌ててパンプスを履こうとしたんだけど。
体重の掛け方を間違えたあたしの体はバランスを崩した。
それでも反射的に体を支えようとして、左足を前に出したけど。
ストッキングしか穿いてない足は絨毯に滑って、体重が掛かった瞬間に激しい痛みが走った。
「痛っ!!」
「大丈夫ですか!?」
赤石の声がすぐ耳元で聴こえたから、やつに支えられたんだって知って、あたしは慌てて離れようとしたけど、体重を掛けると左足首に痛みが走る。
だけど、こいつには弱みなんか見せたくない。
あたしは平気なふりをするために、歯を食いしばって立ち上がって笑顔を作った。
「ありがとうございます。何ともありませんから」
パンプスを履き直して、痛むことを気づかれないよう祈りながら歩き出した。



