「渚杏子は気分が悪くて早退だな」
エレベーターが着いた音が聴こえたと同時にナギが離れて、あたしの頭が動く前に開いた扉の外に押し出された。
「ちょっ……ナギ!待ってよ」
あたしは扉が閉まる前に駆け寄ろうとしたけど間に合わなくて、ナギが乗ったままエレベーターは下へと動いてった。
……どうして。
どうしていつも、ナギはあたしに心を隠そうとするの?
キスしていても、いつもの優しさがなかった。
訊きたい事も、話したい事も、沢山あるのに。
ナギとあたしの間にある壁は、あまりにも厚く遠くあたしたちを隔てる。
「何よ、ナギのバカバカバカ!あんたなんか勝手にすればいいんだわ!」
あたしは壁に向かって罵倒したけど、静かな通路に木霊する自分の声に虚しくなってエレベーターから離れた。
プレートを見たら22階とか書いてあったっけ。
そのフロアには確か輸入部門があった筈だけど、あたしには関係ないから他のエレベーターで下に降りなきゃ。
あたしはエレベーターを探して歩き出した。



