ハッと気がついた時には、呆気に取られた重役の皆さんの顔が……。
あたしは穴があったら入りたかったです、ハイ。
☆
とにかく、無事に助かったから良しとしなきゃね。
ナギに普通の恋人みたいな反応を期待するコト自体が、そもそもの間違いなんだし。
お父さんにだいたいのフロアを案内して貰った後、ナギはなぜか経理部を訪れた。
さっき名刺を貰った経理部長を呼び出し、フロアの奥にある応接間でナギは開口一番にこう言った。
「過去10年間の決算書及び貸借対照表、損益計算書をいただきたいのでですが。
この会社の収支状況を少しでも把握しておきたいもので」
彼はあくまでも慇懃な態度で笑みを絶やさずに、丁寧な口調でお願いしてたんだけど。
その言下に含まれる威圧感はもの凄くて、ぽっちゃりした体型の経理部長は、暑くもないのにやたらと額をハンカチで拭ってた。
「は……はあ。なにぶん急なお申し出ですから、ご用意するのにお時間をいただきたく存じますが」



