「最初に美子が身ごもった事実が判明した時、私はそれは嬉しかった。
私は一目惚れで熱烈なアタックの末に美子と交際し、結婚したのだからね。
だが、時折美子は遠くを見ているような目をしていた。
美子は情が深く優しい性格だったから……もしかしたら、私の熱意にほだされただけで、本当は私を愛していないのかと時折不安になったものだ。
だが、私の子を身ごもった事で、私は漸く愛を信じられるようになったのだ。
おまえも知るように、私は両親との折り合いが悪く、家族には夢を抱いていたからね。
ささやかでも家族みんなが笑って暮らせる、小さな幸せな家庭を作ろうと、美子とならきっと作れると信じていた。
だから、私は美子の出産にも立ち会い、2人で頑張ったんだ。
おまえは年が明けたと同時に生まれた。
その時の嬉しさと感動は、まるで昨日のように思い出せる。
おまえが生まれてくれて、私は確かに嬉しかったのだよ」
嬉しかったんだ。
初めてお父さんからその気持ちを聴いたあたしは、溢れる涙を抑えることなんか出来なかった。



