生まれて初めて持たされたものだから、キーにある記号が何を表すのかすら解らなくてめちゃくちゃにボタンを押してたら、突然キーの上に手が載せられて動作が遮られた。
「そうじゃない、私がやってみせるからよく見てなさい」
お父さんの声だった。
お父さんはあたしから携帯電話を受け取ると、丁寧に説明しながらアドレス帳の出し方を教えてくれた。
なんだ、と呆気なく思えるほど、簡単に名前の一覧が出せた。
「かけたい人は誰かね?」
お父さんに訊かれたあたしは、迷うことなんかなかった。
「ナギ……凪専務に電話したい」
あたしの答えを聴いて、お父さんが息を飲んだ気配がした。
「わかった、専務だね」
お父さんはナギの番号を出してくれたから、あたしは通話ボタンを押し、呼び出し音が鳴り始めた。
お願い、出て!
祈るような気持ちが通じたのか、5回コールしただけで電話が繋がった。
「何か用か、ヤドカリアタマ」
こんな状況でも、ナギからは相変わらずの毒舌を喰らわせられましたがね。



