確かにあたしは頭が混乱してた。
だけど……。
その一方で、ひどく冷静になってる自分もいた。
なぜかは、解ってる。
頭に目の奥に熱が集まってくる、あの馴染みの感覚が、あたしの意識の手綱を引き絞っててくれてたから。
あたしの目には、視えてた。
いえ、この本社ビルに近づいてた時点から、感じてた。
蟠る黒き存在――。
巨大なアプレクターの“黒き王”が、ここには存在してたから。
その中心に居るのが、紛れもなく産土麗子。
今も黒きアプレクターが纏わりついている。
……だけど、違和感がある。
このビル全体を覆う黒きアプレクターは、悪意が感じられない。
以前に手掛けた事がある、村田家のあったレインボーハイツのご神木様みたいに、人間への恨みつらみがあるはずなのに、それがない。
よくよく視てみれば、黒きアプレクターは雲霞のように薄くビル全体を覆っていて、一カ所に凝り固まったりする事はない。



