忌まわしい記憶の全てを消して欲しい。
それの全ては叶わないかもしれないけど、少なくとも新しい記憶で薄れる事はあるのかもしれない。
そうすることで、自分を解放するために。
あたしは、ナギに願った。
これをあなたに消して欲しい――と。
きっと、ナギにしかできないから。
自分から望むなんて、ものすごく恥ずかしくて、逃げて消えてしまいたいくらいに居心地悪かった。
その時あたしはもうナギの腕から離れてたから、恥ずかしさを誤魔化すために勢いよく立ち上がった。
けど、あたしの右手はナギに掴まれて唇を落とされたから、あたしの心臓の鼓動が狂い始めた。
「杏子、俺を見ろ」
ナギの声は、なんでこんなに強い力があるんだろう。
あたしを縛り付けて何も考えさせなくする、圧倒的な支配力。
言葉通りにあたしが彼を見遣ると、ナギはあたしの首筋にキスをした。
あたしは、はっきりと覚えてる。
昏い瞳で刻みつけられた、赤石が触れた場所だったから。



