お堀のベンチは人が少なくて、気兼ねする必要がなかった。
水辺のそばだから、陽気がよくても空気はひんやりと冷たい。
頭上にある満開の桜から花びらがひらひらと舞い落ちて、お堀の水面と足元の地面を敷き詰めた。
木陰の隙間から射し込む光は柔らかくて、その心地よさにあたしは自然と瞼が重くなってた。
マモル君がそばに居てくれる安心感もあったから、遠慮なく一眠りさせてもらうために目を瞑る。
ぼんやりと霞がかった感覚に、柔らかな感触が一瞬だけ掠めた気がした。
「……好きだよ」
男の人の声でそう囁かれたから、あたしも応えたかった。
あたしも好きだよ、ナギ。
逢えないのに、想いばかり日ごとに募ってくの。
体を包み込むのは男性特有の力強さだから、たぶんあたしは無意識のうちにそれに応えたと思う。
でも、その感覚がいつもと違う気がした時、あたしは反射的に目を覚ましたけど。
はっきりしない意識で捉えた間近にある顔は、全く知らない男性だった。



