しかし……
この世では誰よりも、俺の虚しさや欠点や穢れた負の部分を知っているはずなのに。
杏子は……
それでも俺を、好きだと言った。
理解したい、そばにいたいのだと。
……どれだけバカなんだ、こいつは。
「本当に、頭の悪さはギネス級だな、カスタードアタマ。真性のバカに付ける薬はない」
俺が言ってやれば、杏子はむくれて俺を上目遣いで睨みつけた。
「なによそれ!バカは死ななきゃ治らないって言いたいつもり!?」
頬と目と鼻を真っ赤にした杏子の顔は、はっきり言ってめちゃくちゃなブスだった。
だが……
俺には、世界中の誰よりも。
俺は杏子を抱きすくめると、何も言えないように唇を自分のそれでを封じ込めた。
離れないように、離さないように。
息をつく暇も与えず、俺は杏子の耳元で囁いた。
「一緒に暮らそう、杏子。親父と、おまえの母親と、俺と、おまえとで。一生離さないから、そのつもりでいろ」