杏子は涙をためた青い瞳でまっすぐに俺の目を見据えて怒鳴りつけた。
「あたし……ナギが好きなんだからね!
ナギのこと知りたいし、理解したい。一緒に生きたいと思ってるんだから!……ずっと好きだったんだから……」
杏子はそう叫んだ後、俺の胸に顔をうずめて泣いた。
今のは……。
今のは、なんだ?
俺は、自分の耳が信じられなかった。
杏子の声が耳に、胸に、心に、頭に焼き付いて、何度も繰り返される。
……アタシ、ナギガスキナンダカラネ。
その音が、韻が、一度分解されて理解出来る意味あるモノに再構築されるまで、掬いとれるまで、俺の中では時間が必要だった。
俺には絶対に言われない言葉故に。
見てくれや産土本家の嫡男という身分から、確かに俺を好きになった女は居たろう。
だが、所詮は上澄みの清さのみを見て惹かれただけだ。
俺を心底理解し、清濁併せて欲したわけじゃない。
だから、告白とは名ばかりのうわべばかりの空虚な言葉の羅列に過ぎないやり取りにうんざりした。



