杏子は再会してから2日後の夜に目を覚ました。
最初はぼんやりした目で現状を理解してなかった風だったが、顔だけで小屋の内部を見渡した後に俺の顔に目を留めた。
俺は何も言わず、壁に凭れたままじっとやつを見つめ返した。
小屋の中照明はランタンだからか、互いの表情がどうにか判別出来る程度の明るさしかない。
だが、見えずとも俺には手に取るように解る。
こいつの息遣い、目と口の表情の動き、仕草。
ずっと見ていたから。
「ナギ?」
あいつの唇が動き、俺の名を呼ぶ形に作られる。
まるで十年は離れていたかのように、それだけで頑なに強張った体と心の緊張が解けて、ゆるゆるとした温かさに包まれる気がした。
だが、杏子は壁づたいによろめきながら近付いたかと思えば、いきなり手を振りかぶって俺の頬をひっぱたいた。
「ナギのバカ!どれだけあたしを心配させれば気が済むのよ!
言ったでしょう!?何かあれば話しなさいよ、って。なんで何もかも1人で背負おうとするのよ」



