海の中で温かな光を感じた。


そちらを見れば、満月の真下に一頭のザトウクジラが見えた。


まるで祈りを捧げるように頭と尾ひれをわずかに下げ、背中を軽く曲げて水中で静止している。


そのザトウクジラは淡い光に包まれていたが、今まで見たこともないほどに美しく七色に輝いていた。


アプレクター……。


それも、俺が今まで会った事がない位に長く生きたアプレクターだったのだ。


その強大な力から察するに、おおよそ軽く1万年は生きているはずだ。


そのザトウクジラのアプレクターが唄っていたらしく、歌に乗って声が聴こえた。


《凪よ……愛し子よ。まだあなたは逝くべきではありません。
あなたにはまだやるべき事があるのですから》


ザトウクジラの声は水のように澄んで優しく、柔らかい女性の声に聴こえた。


シンガーと呼ばれる唄うザトウクジラは雄のはずだが、どうやらそのザトウクジラは長く生きたゆえに性別がなくなったらしい。


俺は何も言わずに黙っていたが、やがてザトウクジラは意外な事を言った。