「在り巣とは、鳥が住む巣を指す。
つまり、川村忠司は本意としてこう言いたかった。
“イギリスと日本を渡り、いくつもの困難があった。山を越えた海の向こうには懐かしい人もいたが、本当に愛する人は日本にいた。
鳥が古巣に帰るように、私の帰るべき場所はここなのだ。
過去にあった異国(イギリス)での想いは霧のように消え、いい思い出となった。
たとえ私が戦いで死んだとしても、私の帰るべき場所はあなたの元だけなのだから”
その切れ端をよく見てみれば解るはずだ、川村絹枝。
あんたの求めていた答えは全てそこにある」
ナギの指摘に、絹枝さんは恐る恐る布地を広げて……。
目を大きく見開いたかと思うと、大粒の涙を流し、滴り落ちた滴が布地を濡らし染みを広げた。
あたしは気になってそろりと近づき目を凝らしてみれば、やっと見えた。
赤茶けた色で布地には確かにこう書いてあった。
“キヌエさん あいしてます”……と。
それを認めた瞬間、絹枝さんのアプレクターは完全に沈黙した。



