「川村絹枝、あんたは毎日髪の毛を少しずつ切って願掛けをしたな。
川村忠司が生きて帰ってくるように。
だが、それだけではなかった。
願掛けと同時に、恨みつらみも込めながら髪を切った。
自分を愛さなかった忠司へ、そして周りへの無理解から憤怒を籠めながら。結果的に髪に念が籠もり、それゆえにアリスの遺髪の無念さと結びついてアプレクターと化した」
そう言ったナギは何を考えたのか、手にした「不思議の国のアリス」をいきなり破り始めた。
破ったのは本文中のページではなく、本の表紙の裏……裏返しの部分だった。
そこはよく見れば膨らんでいて、ナギがそこから取り出したものは、まず封筒。
開いてみれば、艶やかな黒髪が風に舞った。
だけど、その髪の毛はおかしな動きをした。
アプレクターと化した絹枝さんの元へ飛んでいき、溶けて同化してったから。
すると、先ほどまで穏やかだった絹枝さんの目が再び赤く輝き、唇は裂けて牙が生えた。
《おのれ……よくも……私の正体を暴きおったなあ!》
絹枝さんは、再び髪の毛を蠢かせた。



