しばらく誰もが口を開けなかったみたいだった。
忠司さんと絹枝さんとアリスの境遇が、手に取るように理解できたから。
悲しすぎるヴィジョンだった。
これは実際に起きた出来事で、覚えてた記憶を引き出したもの。
だからこそ、哀しくやるせない。
ほんの60何年前に現実で起きた光景。
平和に暮らせる自分たちがどんなに恵まれてるか、改めて感謝しなきゃと思う。
紅葉がもう一度脈打つと、辺りはすっかり元の景色に戻った。
「忠司さま……」
《タダシ……》
絹枝さんとアリスは、忠司さんが亡くなった事実を初めて知ったからか、呆然としてその場に崩れ落ちた。
「これでわかったろう、川村絹枝。おまえがどんなに嫉妬から夜叉になったところで無駄だと。
川村忠司は死んだ。
1945年の6月に南方の作戦に参加した部隊が全滅したため戦死の通知が送られたが、遺骨がない事から今まで信じずにきっと生きてると思ってきたろう。
だが、いくらお百度参りや願掛けをしても事実は変わらなかった」



