「離してちょうだい、トキ!あなただってお母さまが下敷きになったんでしょう!?なのになぜそんなに冷静でいられるのよ!鬼、悪魔!!」
もがきながらそう叫んだ絹枝さんの頬が、赤く腫れた。
トキさんが思いっきり手を振りかぶって、彼女の頬を張ったから。
「あたしだって……あたしだって、本当なら今すぐ助けたいですよ!
お母さんは女手ひとつであたしを育ててくれた……ドジでどうしようもないあたしにわざと厳しくあたって、ここまで育ててくれた。
まだそんな恩も返せてないのに、平気でいられますか!
たったひとりの家族なんですよ……」
トキさんの叫びと涙に、絹枝さんは押し黙った。
「でも、お母さんは言ってました。
“もし自分ひとりが助かりそうなら、あたしを置いていいから逃げろ”って。
親は子どもが助かる方を望むんだって言ってました。
ですから、お嬢さま。
あたし達は助からなくてはなりません。
それが、奥さまと母に報いる唯一の方法なのですよ」
トキさんの言葉に決意を新たにしたのか、絹枝さんは力強く頷いた。



