ナギはスッと立ち上がると、『ありす』に歩み寄っていった。
それを見た『ありす』は歓喜の表情を浮かべ、アリスは沈んだ顔になった。
《嬉しや、嬉しや。忠司様はわたくしを選んでくだすったのですね》
『ありす』は黒髪が大人しくなり、般若のように裂けた口も戻って穏やかな顔つきに戻ってゆく。
《忠司様!》
『ありす』がその胸に飛び込んだ瞬間、ナギはその肩を抱いたけど。
「生憎と俺はあんたの夫である川村忠司ではない。それはあんたにだとてよく解っているはすだ――
川村絹枝」
ナギははっきりとした声で、『ありす』……いいえ、絹枝さんに言った。
あたしの漠然と感じていた事は当たった。
こんなになるまで、絹枝さんは忠司さんを愛してたんだ。
寂しさから虚しさから、嫉妬してこんな風に、黒きアプレクターと化す程に。
……だけど。
このまんまじゃ悲しすぎる。
ただ退けるだけじゃなんの解決にもならない。
あたしはそんな気がしてならなかった。



