それじゃああたしが視たのは、出征前の忠司さんの様子だったんだ。
でも……と、絹枝さんは言葉を継いだ。
「ずっと待っていると、何度も挫けそうになるときもありました。
あの方にはもしかしたら他に愛する方がいて、そちらに行ってしまわれたのか……と嫌な想像もしました。
そんな方ではない、と私自身が知っている筈なのに、何度否定しても辛く苦しい感情が湧き出す時もありました。
時にはもう忘れてしまいたいと……
何度も何度も思いました。
先ほども言いましたわね、あの方が遠くを見ていると感じていたと。
私は世間知らずの箱入り娘でしたから、自分の意志もなくただただ従順に促されるままに生きてた生きながらの人形でした。
今思えば、なんとつまらない人間だったのかと。
でも、そんな私を、忠司様は大らかな心で優しく包んで下さいました。
たとえ愛して下さらなかったとしても、温かな情と慈しみをくださって。
忠司様は、将来は童話作家になるのだととても熱心に語り、私は様々な事を教えて頂きました。
でも、そんな時にあの方が時折に浮かべる顔は……」



