あたしはスポーツバッグから出した水筒のお茶を蓋に注いで、絹枝さんに渡した。
「ありがとうございます」
絹枝さんはぼそりとくぐもった声で言ってから、ゆっくりとカップに口をつけた。
さわり、と一筋の風が吹いてあたしたちの髪を揺らす。
あたしは何とかフォローしようとして口を開いたけど。
背中を丸めた絹枝さんの姿がいつもより小さく、そして寂しく悲しげに見えて。
あたしから下手な慰めの言葉を出す事なんて出来なかった。
「わかってました。
忠司様が私を愛してなかった事は。
あの方は、いつもいつも遠くを見てましたから。
私でないどこか遠い場所を。
私と忠司様の結婚は、親同士の政略で決まったものでしたから。
あの当時私は従順で大人しい、ただの人形のようなつまらない人間でしたから。
忠司様が愛して下さるはずも御座いませんでした」
絹枝さんは淡々と話してたけど……。
その奥底にはどれだけの悲しみや苦しみが秘められているか。
ナギに裏切られた今のあたしには、痛いほどよく解った。



