全身の力が抜けたあたしはその場でしゃがみ込むと、両手で顔を覆った。
ぼんやりとした視界の端に、薄桃色があった。
何かと涙を拭って顔を上げてみれば――
信じられない事に、その薄桃色は桜の花だった。
それも、全国でよく観られる桜の代表であるソメイヨシノ。
5月の初めなのに……。
あたしたちが今いる桜花村はその名前の通り、桜の名所として知られる土地でもある。
だけど、4月にはもう花が散り終えて葉桜になるはずなんだけど。
そのソメイヨシノが、なんで1ヶ月以上経っても咲いてるの?
あたしに桜の花を見せたのは博君猫で、あたしに見せたいために小枝をわざわざ折ってきたみたいで。
桜の花を猫の姿で手折るのは、決して簡単じゃないはずなのに。
「桜を折るのは人間の姿だとオレ、背が低くて難しくて。
今日ミクと一緒に行って木に登ってきた。
杏子お姉ちゃん元気ないから、ミクも心配してたよ」
そう言って差し出された桜の花びらは……
あまりにも無垢で純真で。



